今回は第3回目をお送りします。
@ヴィヴァルディ 『四季』から「夏」
ヴィヴァルディの超有名曲『四季』。
「春」「夏」「秋」「冬」の4つの楽曲から構成されていて、それぞれ3つの楽章から成っています。
一番有名な「春」は、知らない人はいないでしょう。最近では「冬」がよくフィギュアスケートで使われますね。
全ての楽章にはソネットと呼ばれる詩が付いています。(ソネットが歌詞として歌われることはありません)。
さて今回取り上げるのは「夏」の第一楽章。ソネットにはこう書かれています。
太陽が照り付ける厳しい季節に
人も羊の群れもぐったりし
松の幹も燃えるように熱い
よく通る声でカッコウが鳴き出すとそれに合わせて
キジバトとゴシキヒワが歌い出す
心地よくわたるそよ風を
突然立った北風が押しのけ
ひと荒れきそうな嵐におびえる
羊飼いの子は不運に涙を流す
(※ 注1)
ソネットの訳ではキジバトとなっていますが、楽譜の音階から推測するとキジバトではなく、モリバト(Columba Paulbus )と思われるため、以下はモリバトと記載します。※2
曲はゆったりとしたテンポで始まり、太陽照り付けるぐったりとした暑さが表現された後、急にテンポが速くなって、バイオリンソロがゴシキヒワとカッコウの鳴き声を交互に奏でます。
そしてチェロのソロが低音でモリバトの「グッ グーグー ポポウ」という鳴き声を模しています。
音楽を聴く前に、ゴシキヒワ、カッコウ、モリバトの鳴き声を学習しておきましょう。
ゴシキヒワのさえずり(ピチュチュゥピチョリピピピピピチピチピチチョリチョリチョリピピ)
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
カッコウのさえずり(カッコウ カッコウ カッコウ)
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モリバトのさえずり(グッグーグー ポポゥ グッグーグー ポポゥ グッグーグー ポポゥ)
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さらにカッコウ、ゴシキヒワ、モリバトの鳴き声が登場する部分の楽譜を添付します。
音楽を聴きながらご覧下さい。(書き込みは筆者)

YouTubeのリンクはこちらです。「四季」全曲版。
「夏」は、10分30秒から。鳥の鳴き声は、11分51秒〜12分25秒辺りまでです。
ヴィヴァルディ『四季』
Aチャイコフスキー 交響曲第2番「小ロシア」
ロシアの大作曲家チャイコフスキーは、マンフレッド交響曲を含めると全部で七つの交響曲を作曲しました。特に4番、5番、6番「悲愴」が有名ですね。
今回紹介するのは第2番「小ロシア」。ちなみに「小ロシア」とは現在のウクライナのことです。
チャイコフスキーはこの曲に三つのウクライナ民謡を取り入れていますが、ここで紹介する第4楽章では、ウクライナ民謡「鶴」のメロディーが使われています。素朴な民謡のメロディーがチャイコフスキーの手にかかると、かくも壮大華麗な曲に変身します。
チャイコフスキーを聴く前に、ぜひ原曲のウクライナ民謡「鶴」を聴いてみましょう。その後でチャイコフスキーを聴くと彼の天才ぶりが分かると思います。
YouTubeのリンクはこちら
幼児向けアニメ動画です。ナベヅルっぽい鶴が黄色い帽子をかぶって歩いています。
ウクライナ民謡「鶴」
チャイコフスキー 交響曲第2番「小ロシア」
第4楽章は、22分38秒から始まります。民謡「鶴」のメロディーが繰り返されるごとに曲は盛り上がっていき最後には怒涛のフィナーレを迎えます。
Bラウタヴァーラ 鳥と管弦楽のための協奏曲『カントゥス・アルティクス』
ラウタヴァーラ(1928-2016)はフィンランドの現代音楽の作曲家です。鳥と管弦楽のための協奏曲「カントゥス・アルティクス」では、作曲者自身がフィンランド北部で録音した鳥の声とオーケストラが競演します。録音された鳥の声を使うアイデアはこれまでに他の作曲家でもありましたが、ラウタヴァーラは鳥の声を単に挿入音として扱うのではなく、オーケストラと協奏する「ソリスト」的な存在として扱っています。
曲は次の三つの楽章から成ります。
第1楽章:沼
第2楽章:憂愁
第3楽章:白鳥の渡り
「沼」に登場する鳥は、文献では明確に記載がないのですが、「ピリュリュリュリュリュリュリュー」という声はチュウシャクシギかと思います。チュウシャクシギの鳴き声と言えば「ピピピピピピピ」をよく耳にしますが、特に春の渡り時期はこの「ピリュリュリュリュリュリュリュー」という声で鳴くのを日本でも聞くことができます。この「沼」ではチュウシャクシギ以外に、ときどき白鳥のような声も聞こえてきます。
「憂愁」はシベリウスの「トゥオネラの白鳥」のような寂寥感ただよう楽章です。ここに登場するのは、スロー再生した「ハマヒバリ」とのことです。冒頭、ソロで歌い、やがてオーケストラの中に溶け込んでいきます。
「白鳥の渡り」朝もやのなか、鳴きかわしながらフィンランドの湖を飛び立つ白鳥たち。しばらく湖上空を旋回したあと、やがて南の空のかなたへ消えていく、そんな光景が浮かんできます。
YouTubeのリンクはこちら
17分くらいの曲です。全曲通して聴いてみてください。本当に美しい曲ですよ。
ラウタヴァーラ 鳥と管弦楽のための協奏曲「カントゥス・アルティクス」
Cヤナーチェク 歌劇『利口な女狐の物語』
チェコの作曲家ヤナーチェク(1854-1928)の有名なオペラ『利口な女狐の物語』は女狐が主人公のファンタジーオペラです。とはいえ、決して子供向けの内容ではなく性や生命のつながりのような内容も含んでいる大人向けファンタジーです。
オペラのあらすじ:森番の男に森で捕らえられた女狐ビストロウシュカは、森番の家に連れてこられるが逃亡し、穴熊をだまして、その穴に住む。そして雄狐と出会い結婚式を挙げる。森番と行商人は狐を捕えようとして罠をしかける。雄狐と子狐の代わりにビストロウシュカはおとりとなって逃げるが殺される。後日、森番は森の中で過去を回想し、生命のつながりに思いをはせる。
さて、このオペラで登場する鳥は、雄鶏&雌鶏、キツツキ、フクロウ、それにカケスです。雄鶏&雌鶏は第1幕第2場で女狐に扇動される場面に、キツツキ、フクロウ、カケスは第2幕第4場の結婚式の場面で登場します。
Youtubeのリンクはこちら
オリジナルはチェコ語で歌われますが、ここでは英語版の動画を紹介します。
https://www.youtube.com/watch?v=ncXiyM4Aj_M&ab_channel=BardConservatory
雄鶏と雌鳥が女狐に扇動されて殺される場面は、第1幕の終わり頃、24:00〜28:00の幕が降りるまで。
第2幕第4場の結婚式の場面は、1:04:00頃。まず白装束のフクロウと、青い衣装のカケスが色々な動物と共に登場。1:05:30頃、キツツキが登場。白と黒と赤の服を着てまるでアカゲラのようです。
その後、印象的なメロディーが流れて結婚式が盛り上がり、このオペラ一番のクライマックスを迎えて第2幕の幕が降ります。
Dチャイコフスキー バレエ「眠りの森の美女」から、「青い鳥とフロリナ姫のパ・ド・ドゥ」
チャイコフスキー三大バレエのひとつ「眠りの森の美女」。邪悪な妖精カラボスにかけられた呪いのため100年の眠りについたオーロラ姫は、王子の口づけで目を覚まし、結婚式を挙げる、というストーリー。第3幕の結婚式の場面では、赤ずきんと狼、シンデレラ、長靴を履いた猫など、オーロラ姫を祝うためにおとぎ話の主人公たちが出てきて踊ります。「青い鳥とフロリナ姫のグラン・パ・ド・ドゥ」もその中の一場面です。
YouTubeのリンクはこちら
https://www.youtube.com/watch?v=RkAHSXki4eI
青い鳥とフロリナ姫が2人で踊るパドドゥ 1:59:37〜2:02:05
次に、青い鳥が一人で踊ります。 2:02:35〜2:03:25
次にフロリナ姫が一人で優雅に踊ります。 2:03:40〜2:04:45
最後にもう一度2人で踊ります。 2:05:05〜2:06:30
この後、「長靴を履いた猫の踊り」もご覧ください。猫の扮装をしたダンサー2名がまるで猫のように踊ります。 2:07:05〜2:09:12
Eマーラー 交響曲第1番「巨人」
マーラーは交響曲「大地の歌」を含めると10曲の交響曲を完成させました。その中で第1番「巨人」は演奏機会が多く人気の高い曲です。
冒頭、まるで濃い霧がたちこめる深い森の中のような序奏で始まります。やがて、クラリネットが「カッコウ、カッコウ」とクラシック音楽ではおなじみのカッコウの声を模します。カッコウの声を模したわけではないという説もあるようですが、誰がが何と言おうが、どう聞いてもカッコウなんですよ。(笑)。その後、カッコウ、カッコウ、カッコウ、タッタッタッタタッタッター、ターラララーラーラララー、ターラララーラーラーと第1主題が始まります。
YouTubeリンクはこちら
https://duckduckgo.com/?q=%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%80%80%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%9B%B2%E7%AC%AC%EF%BC%91%E7%95%AA&t=newext&iax=videos&ia=videos&iai=https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fwatch%3Fv%3DZzuclebUeMA
最初にクラリネットが「カッコウ」と吹くところ 2:16〜
もう1回、クラリネットが「カッコウ」と吹くところ 3:11〜
今回は以上です。
鳥とクラシック音楽の深い関わりを味わいつつ、野鳥観察とクラシック音楽の両方を楽しんじゃいましょう。
注1: 参考HP http://vivaldi.music.coocan.jp/vivaldi/sonetto.html
注2:ヴィヴァルディ「夏」のゴシキヒワ、カッコウ、ハトの鳴き声が楽譜のどの部分に相当するのかは長年の疑問でした。音楽だけ聴いていると、ゴシキヒワとカッコウをバイオリンソロひとつで奏でていることは分かりにくいですね。それとチェロのソロがハトの鳴き声というのも分かりにくいです。でも楽譜を見ると、ちゃんとバイオリンソロのパートにゴシキヒワの声と並んでカッコウの音階が書いてあり、チェロがハトの声を奏でているのです。ヴィヴァルディ、すごい!
もうひとつの疑問は、ハトが何バトを表すのか、ということでした。ソネットの原文では「キジバト」と記載されています。しかしチェロパートの音階はどう聞いてもキジバトの鳴き声ではないのです。そこで、チェロパートの楽譜を頼りにして、欧州に生息するハト類の鳴き声を片っ端から調べてみました。その結果、モリバト(Columba Paulbus )の鳴き声がチェロパートの音階にぴったりと当てはまることが判明しました。しかもモリバトはイタリアでは留鳥ということなので、おそらくヴィヴァルディはしばしばモリバトの鳴き声に耳を傾けていたことでしょう。ソネットには「キジバト」と書いてあるものの、ヴィヴァルディはモリバトの鳴き声の方が曲想に合うと考えて、モリバトの鳴き声を曲に取り入れたのかもしれません。こんな空想を楽しめるのも、「鳥とクラシック音楽」の醍醐味です。
こちらもお読みください。
鳥とクラシック音楽その1
鳥とクラシック音楽その2
日本野鳥の会愛知県支部
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